竹河 その三十

 それを見た蔵人の少将は、



「あの人はこういうふうに悠然と構えて、体裁よく恨み言を訴えるようなのに、自分ときたら外聞もなく取り乱して焦燥するものだから、一つにはそれが当たり前になってひどく馬鹿にされるようになってしまったのだ」



 と考えるのも胸が痛いので、ことさら何も言わずいつも取次ぎをしてもらう女房の中将のおもとの部屋行きながらもどうせいつものように今日も駄目だろうとついため息が漏れるのだった。藤侍従が、



「このお返事を書かなければ」



 と母君のところへ行くのを見ると、蔵人の少将はとても腹が立って苛々して若いだけに一途に思いつめてしまうのだ。


 浅ましいほど恨みごとを言って嘆くので、この取次ぎもうっかり冗談にあしらうこともできず、気の毒がって返事もろくにしないでいる。蔵人の少将はあの姫君たちの碁を打つ姿を覗き見した夕暮のことも言い始めて、



「あれくらいの夢かと思うような嬉しい目にせめてもう一度あいたいものだ。ああ、これからは何を頼みに生きていかれようか。こんなふうにあなたにお願いするのももうそう長くはないような気がする。今となってはつれなくされたことさえ懐かしいと詠まれた古歌も本当に育とうなずけます」



 ととても真剣な表情で言うのだった。

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