竹河 その十六

 蔵人の少将もとてもよい声で催馬楽の「この殿は」の〈さき草〉を謡う。うるさいおせっかいをするような老人などはここにはいないので、いつの間にか互いに気持ちも弾んで演奏する。主人側の藤侍従は亡き父君の髭黒の大臣に似ているのか、こうした音楽の趣味などは不得手で、盃ばかり傾けているので、



「ご祝儀の歌くらい謡ってはどうですか」



 と蔵人の少将たちになじられて、「竹河」を他の人々が謡うのに合わせてまだ未熟だが、面白く謡った。


 御簾の内から玉鬘の君が盃を差し出す。薫の君は、



「酔いが回ると心に隠していることも包み切れず、対つまらないことをしでかすと聞いております。そんなに酔わせて、一体私をどうなさるおつもりですか」



 とすぐには盃を受けない。小袿を下に重ねてある細長に、人の移り香の懐かしくしみついているものを玉鬘の君はとりあえずありあわせのまま、薫の君に褒美として与えるのだった。

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