竹河 その十七

 薫の君は、



「これはまたどうしたことでしょう」



 などと騒いで、主人役の藤侍従の肩にそれを掛けて帰っていく。藤侍従はそれを引き留めて薫の君の肩に掛け返そうとしたが、



「ちょっとお邪魔するつもりでしたのに、軽いおもてなしの御馳走につい夜も更けてしまいました」



 と言って、薫の君は逃げ帰った。


 蔵人の少将はこの薫の君がこうして折々立ち寄っているようではこの邸の人々はみな薫の君に好意を寄せるだろうと自身はひどくがっかりしてしおれきり、味気なく思い恨んでいる。




 人はみな花に心を移すらむ

 ひとりぞまどふ春の夜の闇




 と蔵人の少将はため息をついて立ちかけると、御簾の内から女房が、




 折からやあはれも知らむ梅乃花

 ただ香ばかりに移りしもせじ




 と返歌を寄越したのだった。

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