竹河 その十四

 寝殿の西側の部屋から琵琶や筝の琴の音がしているので、蔵人の少将は気もそぞろにそこに立っていたのだろう。



「はた目にもつらそうに見える。親の許さぬ恋に悩むのは罪の深いことなのだな」



 と薫の君は思った。琴の音も止んだので、



「さあ、案内してください。私はまったく勝手がわからなくて」



 と薫の君は言って蔵人の少将を伴って、西の渡り廊下の前に立つ紅梅の木の下に立ち寄った。催馬楽の「梅が枝」を、



〈梅が枝に 来居る鶯 や 春かけて はれ 春かけて〉



 と口ずさみながら立ち寄った薫の君の芳香が紅梅の香よりも鮮やかにさっとあたりに匂いたったので、妻戸を押し開けて女房たちが和琴をとても上手に歌に合わせて弾いた。



「女の弾く琴で、呂の調子の歌は、なかなかこれほどうまく合わせられないのに、これはたいしたものだ」



 と薫の君は感心してもう一度折り返して謡うと、琵琶もこの上なく華やかな音色で合わせる。なかなか高尚に趣味深く暮らしている邸なのだなと薫の君は心がひかれたので、今夜は少し気を許して他愛もない冗談なども女房たちに言うのだった。

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