竹河 その十一

「このお邸の大君のお側にはこの方こそ並べてみたいわね」



 などと聞き苦しいことを話し合っている。


 薫の君は本当にみずみずしくあでやかな姿をしていて、少し身じろぎするたびにあたりに匂い立ついい香りなどはこの世のものとも思えない。いくら深窓の姫君といっても、もののわかる人は、なるほど薫の君は人よりは本当に優れているようだときっとわかるだろうと思われた。


 玉鬘はそのとき、御念誦堂にいたので、



「こちらへ」



 と招いた。薫の君は東の階段から上って、戸口の御簾の前に座った。庭前にすぐ近い若木の梅がようやく蕾をつけて鶯の初音もまだいかにもたどたどしくのどかに聞こえてくる。薫の君がそんな背景にふさわしく、いかにも若々しく、何か色めいたことを言ってそそのかしてみたいような様子なので、女房たちが冗談を口々に言いかけて気を引こうとしている。薫の君はそれに返事もろくにせず、心憎いほど澄ましかえっているので、女房たちは口惜しがって、宰相の君と言う上臈の女房が詠みかけるのだった。

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