紅梅 その十七

 大納言は本気でこの縁談をまとめようと考えているのだろうかと匂宮はやはり悪い気はしないで胸をときめかせるものの、




 花の香をにほほす宿にとめゆかば

 色にめづとや人の咎めむ




 などとまだ気をゆるさない返事ぶりなのを、大納言は内心妬ましいと思っている。

 真木柱の北の方が宮中から退出して、宮中での出来事をあれこれ大納言に報告するついでに、



「若君が一晩宿直して退出してきた時の匂いが、とても芳しかったのを他の人たちは何も気づかなかったのですが、東宮がいち早くお気づきになられて、『匂兵部卿の宮のお側にいたのだね、道理で私を嫌い避けたのだ』と様子を察して、恨み言をおっしゃったのがおかしかったですわ。あなたから匂宮にお手紙でも差し上げたのですか。そんなふうにも見えませんでしたけれど」



 と言う。大納言は、



「そうなんだよ。梅の花を好きな人だから、あの東の軒端の紅梅が今を盛りと咲いていたので、捨てておけなくて折って差し上げたのです。匂宮の移り香は何とも言いようがないほど素晴らしい。宮中で晴れがましく宮仕えしている女房などはとてもあんなふうには薫きしめることはできない。薫中納言は匂宮のようにああまで風流ぶって香を薫きしめられないが、生まれつき具わっている体から放つ芳香は世にも比類もない。どうしてああいう果報を得られたのか、前世の因縁を知りたいものです。同じ花の中でも、梅はあんな芳香を持って生まれている。その生い出てきた根本のところこそやはり知りたいものだ。匂宮などがお好みになるのは、当然のことですよ」



 など、花にかこつけても、まず匂宮の噂をするのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る