匂宮 その十五

 薫中将はこの俗世を心の底から味気ないものと悟りすました気持ちなので、



「なんじ女に執着したら、未練が残って出家がしにくくなりはすまいか」



 など考えるので、面倒なことになりそうな高貴なあたりとかかわりを持つのは差し控えたいと思い、結婚はあきらめている。さしあたって今のところ心深くかかるような相手がいないので、悟りすました顔をしていられるのだろう。


 世間の人の許さない恋などは、なおさら考え付くはずものない。


 十九歳になった年、三位の宰相になり、これまで通り右近の中将も兼ねている。帝と后の格別の引き立てで臣下としては誰にも気兼ねない素晴らしい人望でいるが、心の内には自分の出生の秘密について屈託があるので、もの悲しい思いをすることもあり、気まぐれな浮いた色事にはあまり気持ちが進まず、何事も控えめになって自然老成した性質の人だと世間の人々にも思われているのだった。

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