匂宮 その五

 世の中の人々は光源氏を恋い偲ばない人は一人もなく、何につけても世の中はまるで火を消したようになり、何をしても栄えないのを嘆かないときがないのだった。


 ましてそれらを邸に仕える人々や女君たち、宮たちなどは言うまでもなく、この上なく立派だった光源氏のことはもちろんのこととして、またあの紫の上の面影がいつまでも心に沁みついて、何か事あるごとに思い出さないときはないのだった。


 春の花の盛りのときは本当に長くはないところにいっそう愛着が深まるのだろうか。


 女三の宮の若君は光源氏が特にお願いしていた通り、冷泉院がとりわけ大切に世話して、秋好む中宮にも皇子たちが生まれず、心細く思っていたので、将来はうれしい後見役として心からこの若君を頼りにしている。


 元服なども冷泉院の御所で執り行われた。十四歳の二月に侍従になり、その年の秋、右近の中将になった。冷泉院の恩顧により、年給ももらい、位もあがった。何をそれほどやきもちするのか、とても急いで四位に昇進させて早々と一人前にしてあげたのだった。

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