幻 その十七

 四月になると、花散里から夏の衣替えの衣装が贈られるのに添えて歌が届いた。




 夏衣たちかへてける今日ばかり

 ふるき思ひもすすみやはせぬ




 光源氏は、




 羽衣のうすきにかはる今日よりは

 空蝉の世ぞいとど悲しき




 と返歌した。


 賀茂の祭りの日には光源氏は本当に所在なくて、



「今日は祭見物にと、みんなさぞ楽しみにしていることだろうな」



 と賀茂神社の祭のありさまなどを想像する。



「ここの女房たちはどんなにつまらなく思っているだろう。実家へ帰ってこっそりと見物してくればよい」



 などと言うのだった。

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