幻 その十八
中将の君が東面の座敷でうたた寝しているところへ、光源氏は近づいてゆき見ると、中将の君はとても小柄で可憐な姿をしていたが、起き上がってきた。
華やかでつややかな顔つきが寝起きでほんのりと上気したのをそっと隠すようにして、少しそそけてふくらんだ髪の毛が頬に柔らかく乱れかかったところなど本当に美しく見える。紅の黄色がかった袴、萱草色の単衣、濃い鈍色の袿に、黒い上着などをしどけなく重ね着している。裳や唐衣もくつろいで脱ぎすべらせていたのはさりげなく引きかけたりする。
光源氏は中将の君の傍らに置いてあった葵を手に取って、
「何と言ったかな、この草の名前。忘れてしまった」
と戯れて言う。
中将の君は、
さもこそはよるべの水に水草ゐめ
今日のかざしよ名さえ忘るる
と恥ずかしがりながら言う。
光源氏はいかにもとしみじみとてもおかしくなり、
おほかたは思ひ捨てて世なれども
葵はなほやつみをかすべき
などと言い、この中将の君一人だけは捨てられない気持ちのようだった。
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