幻 その三
その当時の事情も紫の上の嘆きも知っていて、今も光源氏の側近くに仕えている女房たちはそれとなく紫の上の悩みだった様子を話す人もいる。
女三の宮が初めて六条の院に輿入れした当時、悩みの片鱗も顔には出さなかったが、何かにつけて自分はつまらなく情けないと感じていた紫の上の様子が胸にしみて感じられたことが思い出される。
中でもあの雪の降った明け方に女三の宮の側から朝帰りすると、女房たちがわざと妻戸を開けなかったので戸の外で立ち往生して体も凍えるような気がして、折から空も荒れ模様で心細かった時に紫の上はいつものように心からやさしくおっとりと迎え入れてくれたものだ。それでも袖はとっぷりと泣き濡らしていたのを押し隠して、強いてさりげなく紛らわしていた。
そんないじらしい心遣いなどを光源氏は思い出しながらまたいつの世にか夢の中でもいいからもう一度見ることができないものかと一晩中思い続けているのだった。
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