御法 その二十九

 冷泉院の后の秋好む中宮からも心のこもったしみじみとした便りをいつももらう。尽きることない悲しみをいろいろと書いてあり、




 枯れはつる野辺を憂しとや亡き人の

 秋に心をとどめざりけむ




「今になって初めてその理由がわかりました」



 と手紙にあるのを光源氏は悲しさのあまり分別も忘れた気持ちながらも下にも置かず何度も何度も繰り返し見る。相手のし甲斐があり、風情のある歌や手紙で心の慰めとなる人としてはこの秋好む中宮一人が残っているのだったと少しは悲しみもまぎれるように思っている。涙がこぼれてくるのを袖で拭う暇もなくて、なかなか返事を書かない。




 のぼりにし雲居ながらもかへり見よ

 われあきはてぬ常ならぬ世に




 手紙を包み紙におさめてもしばらくぼんやりと物思いにふけっているのだった。

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