御法 その二十三

 光源氏は足元もおぼつかなく、空を踏んでいるような思いがして人に寄りかかっているのを見た人々は、あれほど厳かで立派な人なのにと何の情けもわきまえない身分の低い人でさえも気の毒で泣かない人はいない。まして葬送に参列した女房たちは夢の中をさまよい歩いているような心地がして、牛車から転び落ちそうになるので供人は扱いかねて手を焼くのだった。


 光源氏は昔、夕霧の母君、葵の上がなくなったときの暁を思い出すにつけても、あの時はまだ少し正気づいていたのか、尽きの面ははっきりと見た記憶があるのに、今夜はただ悲しみに掻き暮れて目の前が真っ暗で何もわからない。


 紫の上は十四日に亡くなり、葬送は十五日の夜明けまでに行われた。朝日はとてもはなやかにさし昇って野辺の露も隠れる隈なく照らし出されるので、光源氏はそれを目にするにつけてもはかない人の世のことをつくづく考え、物思いにふけっている。考えれば考えるほどいよいよこの世が厭わしくてたまらなくなり、



「紫の上のあとに生き残ったところで自分だってどれほどの余命があろうか。いっそこんな悲しさにまぎれて昔から心がけていた出家の念願も遂げたいものだ」



 と思う。しかし妻に死なれてすぐに出家するなどいかにも女々しい人だと後々人に批判されることにもなるだろうと考えるので、せめてここしばらくは辛抱してこのまま過ごそうとする。それにつけても胸にこみあげてくる悲しさがたまらなく耐え難いのだった。

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