御法 その十八

 光源氏はまして悲嘆をなだめ静めるすべもないので、夕霧が側近く来ていたのを几帳のそばに呼び寄せて、



「このようにもう今は最期の様子だけれど、これまで長い間ずっと望んでいた出家の本懐をこういうときに遂げさせないまま死なせるのがいかにも可哀そうでならない。加持に奉仕している僧侶たちや読経の役僧たちももう読経をやめて皆帰ったらしいが、それでもまだ少し残っているものもいるだろう。もはやこの現世のためには何の役にも立たないと思うけれど、今はせめて仏の御利益をあの暗い冥途の道の光にしてでもお頼み申さなければならないから、紫の上を落飾させるようにと僧たちに申し付けてください。それができるこれという僧では誰が残っているのか」



 などと言う。その表情は努めて気を張っているようだが顔色もいつもとは違っていて、どうしてもこらえかねて涙が止まらないのを夕霧も見て、無理もないと悲しく思うのだった。

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