御法 その十一

 紫の上は心の内では自分の死後について考えることもたくさんあったが、かしこぶった調子でそうしたことを口に出そうとは一切しない。ただ人の世のはかなさなどを世間の常のこととしておっとりと言葉少なに、しかし決して軽々しくはない口調で話すのがかえって言葉数多くはっきり口に出すよりも悲しく、心細そうな様子がありありとうかがえるのだった。若宮たちを見ても、



「それぞれの宮たちの将来を心から拝見したいと願っていましたのはこんなふうにはかない自分の命を予感して惜しむ心がどこかにあったためでしょうか」



 と言い、涙ぐむ顔がそれはそれは美しかった。どうしてこんなに心細いことばかり考えているのかと思い、明石の中宮も泣いた。改まった遺言のような言い方などはせず、話のついでなどに、



「長年私に仕えてくれた親しい女房たちの中で、これという頼りどころのない可哀そうな身の上のものがおります。そんな誰と誰のことを私のいなくなったあとにもお心にとどめてどうかお目をかけてやってください」



 などとだけ言う。明石の中宮の季の読経が始まるので、紫の上はいつもの自分の西の対の病室に戻っていくのだった。

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