御法 その十二

 三の宮は大勢の親王たちのなかでとりわけ可愛らしく、ちょこちょこと歩き回っているのを、紫の上は気分のいいときに自分の前に座らせて女房たちの聞いていないようなときに、



「私がいなくなりましたら、宮さまは思い出してくださるかしら」



 と尋ねると、三の宮は、



「とても恋しいでしょう。だって宮中の帝よりも中宮さまよりもずっとお祖母さまが大好きなのですもの。いらっしゃらなくなればきっと機嫌が悪くなると思う」



 と言いながら目をこすって涙を紛らわしている様子が可愛らしいので、紫の上は微笑みながらも思わず涙があふれるのだった。



「宮さまが大人になられたら二条の院にお住みになってこの西の対の前の紅梅と桜を花の咲く季節には忘れずに見てお楽しみなさいね。ご法事のような折には仏さまにもこのお花をお供えくださいね」



 と言うと、三の宮はこくんとうなずいて紫の上の顔をじっと見つめていたが、涙がこぼれそうなので立ち去ってしまったのだった。

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