夕霧 その九十六

 夕霧は、



「それ、そんなにいつも子供っぽく腹を立ててばかりいらっしゃる成果、もう見慣れてしまってこの鬼さんは今ではもうちっとも恐れなくなってしまった。鬼ならもっと神々しいう威厳が欲しいものだね」



 と冗談にしてしまうが、雲居の雁は、



「何を言っているの。あなたなんかさっさと死んでおしまいなさい、私も死にます。顔を見れば憎らしいし、声を聴くと癪に障るし、見捨てて死ぬのは気がかりだし」



 と言うと、いっそう可愛らしさが増すばかりなので、夕霧はやさしく笑って、



「離れてしまって会わないでいてもよそながら噂をお耳にされないわけにはいかないでしょう。私に死ねと言われたのは死んでからも私たちの夫婦の契りの深さを知らせようとのおつもりなのですね。夫婦の一人が死ねばすぐもう一人が後を追おうと、確かそんなお約束をしましたっけ」



 と軽くあしらってあれこれと雲居の雁はもともととても無邪気で素直な心の可愛らしい人なので、どうせまた一時の気休めを言っているのだと思いながらも自然に機嫌を直して和やかになっているのだった。

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