夕霧 その九十二

 花散里は、



「世間のでたらめの噂かとばかり思っていましたのに、本当にそんなご事情でいらっしゃったのですね。そんなことは世間にはよくある話ですが、雲居の雁の姫君がどんなお気持ちでいらっしゃることかととてもお可哀そうですわ。今まで何のご苦労もなさらなかったのに」



 と言う。



「姫君などと随分可愛らしそうにおっしゃいますね。まったく鬼みたいな性悪女なのに」



 と言って、夕霧は、



「それでも私はあれだって決していい加減には扱ってはいませんよ。失礼ではございますが、この六条の院の女君たちのお暮らしぶりからもお察しください。女というものは結局穏やかでおとなしくしているのが勝ちです。口やかましくことを荒立てがちに嫉妬されますとはじめのうちはなんとなく面倒でうるさいのでつい遠慮することもあるのですが、いつまでもいいなりに従うわけにもいきませんから、一騒動起こったが最後、お互いに嫌気がさして愛想も尽きてしまいます。やはり紫の上のお心遣いこそは何位につけてもまたとなく珍しく御立派ですし、またこちら様のご性質などこそつくづく素晴らしいと感心しきってしまいました」



 などと褒めるのだった。

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