夕霧 その四十一

「年月が経つにつれて馬鹿になさるのはあなたのお気持ちのほうじゃありませんか」



 夕霧があまりに泰然自若としているのに気後れして、雲居の雁はそれだけを若々しい表情で言うのだった。夕霧は笑って、



「それはどちらだっていい。こんな喧嘩は夫婦の間にはよくあることですよ。しかし私のような相当な地位の男がこんなに浮気もせずにただ一人の妻だけを守り通してあの雌におびえている雄鷹のようにいつもびくびくしているのはまったくどんなに世間の笑いものにされていることか。そんな融通も利かない男に大切にされたところであなただって名誉にもならないでしょう。たくさんの妻妾たちのいる中で、やはり一人だけ目立って重んじられて別格にされているというのこそ世間からも奥ゆかしく思われ、私の気持ちもいつまでも新鮮で夫婦仲の情緒もしみじみした愛情も長続きするというものでしょう。昔話にあるおいぼれの夫のようにあなた一人を忠実に守っている馬鹿さ加減だからまったく口惜しい限りです。これではあなただって何の見栄えもしないじゃありませんか」



 と、それでもこの手紙をさりげなくうまく透かしとろうという下心で心にもないことをうまく言うのだった。

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