夕霧 その三十一

 御息所はものも言えず、なんとも辛く口惜しく思ってほろほろと涙をこぼした。小少将の君はそれを見るだけでも何ともいたわしくて、



「どうしてありのまま申しあげてしまったのだろう、ただでさえ病気で苦しんでいらっしゃるのに、ますます心痛がつのられるだろうに」



 と後悔して座っている。



「襖はしっかり錠をしてございました」



 などと何とかましなように取り繕って言うが、御息所は、



「とにもかくにも襖を隔てたくらいな不用意さで軽率にも人に姿を見られたことは何とも言いようがありません。自分だけがいくら潔白だと思っていても、あんなことまで口にした法師たちや口さがない若者などが好き勝手にあらゆることを言いふらさずにおくものですか。まったく行き届かない幼稚な者たちばかりがお側についていて」



 と、それさえ悲しみのあまり終わりまでは言うことができない。とても苦しそうな病状のところに、思いもかけないことで心痛と驚きが重なったので、いかにもいたわしい様子だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る