夕霧 その二十六

 そうは言っても、夕霧の手紙はあまり悪い感じではなく、いかにもやさしく心を込めて書いている。




 魂をつれなき袖にとどめおきて

 わが心から惑はるるかな




「〈思ふよりほかなるものは心〉とか、古歌にもありますから昔もこんな思いをする人があったのかと思ってみますが、自分の恋心の行方も一向にわかりません」



 などとても長くしたためてあるようだが、女房たちも遠慮してあまりはっきりとは読まない。


 今朝の手紙は普通の後朝の手紙のようでもないらしいのだが、女房たちにはやはり昨夜二人に何があったのか、不審でならないのだった。女二の宮の今朝の悲しそうな様子があまりにもいたわしく見えるので、気の毒に見受けながら、



「いったいどうしたことなのかしら。夕霧が何事につけ世にまれなほど親切にお世話してくださる気持ちはもう何年となく続いていますけれど、もしも結婚ということでお頼りするとなると、案外今までほどにはしてくださらないのかしら。そう思うと心配ですわね」



 などと側近くに親しく仕えている女房たちは皆お互いに気を揉んでいるのだった。

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