夕霧 その二十一

 これからのことがひどく気がかりで、かえって未練がつのり去りかねるのだが、いきなり好色めいた乱暴なふるまいに及ぶなどということは本当にこれまで未経験なので、女二の宮に対してもそんなことはかわいそうだと思うし、自身としても我ながら愛想の尽きる思いをするだろうと考えてどちらのためにも人目につかないように立ち込めている霧に紛れて帰った。その気持ちは上の空で覚えもない。


 萩原や軒端の露にそぼちつつ

 八重立つ霧をわけぞゆくべき


「あなたの濡れ衣はどうせ乾かすことはできないので、浮名は立つでしょう。それもこんなに冷酷に無理にも私を追い払われるそちらのお心のせいなのですよ」

 と言う。女二の宮は、

「確かにこの浮名は間もなくきっと世間に洩れてしまうだろうけれど、せめて自分の良心の咎めにはきっぱりと潔白だと答えよう」

 と思い、つとめて冷淡に夕霧と距離を置いている。


 わけゆかむ草葉の露をかごとにて

 なお濡れ衣をかけむとや思ふ


「何という珍しいあきれたお話ですこと」

 と言い、深い心のない人だとさげすんでいる様子は、とても優雅で夕霧が恥ずかしくなるほど気品があるのだった。

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