夕霧 その十九
月が隈なく澄み渡り、月光は霧にもまぎれず狭い山荘のことで部屋の内まで明るく差し込んでいる。奥行きの浅い廂の間の軒は、狭く感じられるので室内に居てもまともに月の顔と向かい合っているような気がする。女二の宮は月光の明るさに決まりが悪くも、見苦しくも思い、顔を隠そうとしている様子など言いようもなく優艶だった。
亡き柏木のことも夕霧は少し話し、差しさわりのない話だけを穏やかにする。それでもやはり女二の宮が亡き柏木のようには自分を扱ってくれないのを恨めしそうに訴えていた。
女二の宮は心のうちに、
「亡きあの方は官位などまだそれほどでもなかったけれど、どなたからもみな許されたので、成り行きに任せて結婚して夫婦として親しく暮らしたけれど、それでさえあの人から随分心外な冷たい仕打ちを見せられたではないか。ましてこの夕霧との間にあってはならない間違いが起こったりしたらこの人はまったくの他人でもない人なのだから、舅の前の太政大臣などは何とお思いになることか。世間の非難は今更言うまでもないことだし、父朱雀院もそんな噂をお聞きになれば、何と思し召すことやら」
など縁の深いあちらこちらの人々の思惑を考えていると、今夜のことがいかにも口惜しく思うのだった。
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