夕霧 その十八
「不運な私の情けない結婚の過ちはよく心得ていましても、本当にこうまでひどい、心外なあなたの仕打ちをどう考えたらよろしいのでございましょう」
と聞き取れないほどかすかな声とともに哀れ深く泣き、
われのみや憂き世を知れるためしにて
濡れそふ袖の名をくたすべき
と口にするつもりもなく、ふと洩らすのを、夕霧は聞きつけてそのままひそやかに口ずさんでいる。女二の宮は気恥ずかしくてどうして歌など口にしてしまったのかと悔やんでいた。夕霧は、
「いや、まったく失礼なことを申しあげました」
と言いながら、苦笑している様子で、
おほからはわれ濡れ衣を着ずとも
朽ちにし袖の名やは隠るる
「くよくよお考えにならないで、一思いにご決心ください」
と言い、月光の明るいほうへ誘うのも、女二の宮は新仮名呆れ果てたことと思う。心強く冷淡な態度を続けるが、夕霧はあっけなく軽々と女二の宮の体を抱き寄せ、
「これほどたぐいもない私の熱烈な恋心を認められて、ご安心なさってください。お許しがなければこれ以上のふるまいは決して、決して」
とひどくきっぱり言ううちに、明け方も近くなるのだった。
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