夕霧 その十一

 御息所がとても苦しそうになったというので、女房たちもみなそちらのほうへ集まってしまい、もともとお供の数が少ないこうした仮住まいなので、女二の宮の前はいっそう人少なになり、寂しくなってしまった。女二の宮はしんみりと物思いに沈んでいる。


 こうしたもの静かな時こそ心の内を打ち明ける絶好の機会だと夕霧が思いながら座っていると、たまたま霧がこの家の軒下までひたひたと流れよってきた。夕霧は、



「お暇して帰る道も、霧に立ち込められて見えなくなってきましたが、どうしたものでしょう」



 と言い、




 山里のあはれを添ふる夕霧に

 立ち出でむ空もなきここちして




 と言うと、




 山賎の籬うぃこめて立つ霧も

 心そらなる人はとどめず




 と、ほのかに聞こえてきた女二の宮の声や気配に慰められて、夕霧はすっかり帰る心もなくしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る