鈴虫 その十四

 盃が二回りくらいした頃に、冷泉院から便りがあった。宮中での月見の宴が急に中止になったのを残念がり、左大弁や式部の大輔などのほか、さらに大勢のこれという人々はみな残りなく連れたって冷泉院に参上すると、夕霧などは六条の院にいると聞いての使いなのだった。




 雲の上をかけ離れたるすみかにも

 もの忘れせぬ秋の夜の月




「同じことならあなたもこちらにいらっしゃい」



 と言うので、光源氏は、



「出入りに大して面倒なこともない私の身分だけれど、今では公事もなく静かにのどかに暮らしているのに、つい参上することも滅多になくなったのをつまらなく思うあまり、逢いたくなったのだろう。もったいないことだ」



 と言って、急なことだが冷泉院に今から行こうとする。




 月かげは同じ雲居に見えながら

 わが宿からの空きぞかはれる




 ととりたてて言うほどの返歌ではないが、ただ冷泉院の今昔の立場を思い続けるまま、詠んだものだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る