鈴虫 その十一

 女三の宮は、



 おほかたの秋をば憂しと知りにしを

 ふり捨てがたき鈴虫の声



 と小声でひっそりつぶやく。それがいかにも優雅で高貴な中にもおっとりしていた。



「何ということをおっしゃいますか。いやはや思いがけないお言葉です」



 と光源氏は言って、



 心もて草のやどりをいとへども

 なほ鈴虫の声ぞふりせぬ



 などと言って琴のお琴を取り寄せ、珍しく弾いた。


 女三の宮は数珠を手繰るのも休んでお琴の音にただうっとりを聞きほれている。


 そこへ十五夜の月がさし上って月光がはなやかに照り渡るのも趣深く、光源氏は空をうち仰いでは人の世の様々な運命につけ、はかなく移り変わっていく人々の有り様も思い続けて、いつもよりしみじみとした深い音色に琴を掻き鳴らしているのだった。

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