鈴虫 その九
光源氏はこの秋の野に造った前庭に虫をたくさん放し飼いして風が少し涼しくなってゆく夕暮に女三の宮の部屋に出かけた。虫の音を聞いて来たようなふりをするが、やはりそんな折をとらえては今でも女三の宮の出家をあきらめきれない心のうちを訴えて女三の宮を困らせる。女三の宮は、
「例の困った好色のお癖からまたとんでもないことになりそう」
と一途に迷惑がっている。
光源氏は人目には以前と変わらないようにさりげない扱いを女三の宮にしているが、内心では例の密通の件を根に持っている様子がありありと見える。以前とはすっかり変わってしまったそんな心が女三の宮には辛くならない。どちらかといえばもうどうしても光源氏には会うまいという決心で出家したのだった。出家してからはすっかり夫婦の縁も切れて気持ちが楽になったと思っているのに、相変わらず光源氏がまだこんなことを言うのが辛くて、いっそ六条の院の人々から離れた三条の宮邸にでも住みたいという気持ちだが、それも生意気のように思えてそう強くは言えないのだった。
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