横笛 その二十九

「その笛は私が預かっておくべきわけのあるものです。あれは陽成院の御笛なのです。それを亡くなった式部卿の宮が非常に大切にしていらっしゃったのを柏木が子供のころから笛が上手で人とは異なったすばらしい音色を出すのに感心なさって式部卿の宮廷で萩の宴をなさった日に贈り物としてお与えになったのです。ご息女が女心の浅慮から深い由緒も知らずそんなふうにあなたに渡したのでしょう」



 などと言って、



「後の世に永くその笛を伝えたいと思う相手は我が子以外の誰に取り違えるはずがあろう。柏木もきっとそう考えたに違いない」



 と思いながら夕霧もよく心遣いが行き届く人なので、勘づいていることもあるだろうと考える。


 何となく感慨深そうな光源氏の様子を見ると、夕霧はますます遠慮してすぐには話が続けられないが、それでもぜひとも耳に入れておきたい気持ちがあるので、今、この機会にふと思い出したように、わざとわけのわからないふりをしながら言うのだった。

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