横笛 その三十

「あの人の臨終の際にも見舞いに参りました時に、死んだ後のことをいろいろ遺言したのですが、その中にこれこれで光源氏様に深く申しわけなく思っていることをお伝えしてほしいと返す返す言いましたが、どういうことだったのでしょう。今もってその理由が思い当たりませんので気にかかっております」



 といかにも不審そうに言う。光源氏はさてはやっぱり知っているのだなと思ったが、どうしたってそのときの事情ははっきり話してよいわけでもないので、しばらくわけのわからないふりをして、



「そんなに人から恨まれるような態度をいつどんな時に見せてしまったのか、自分でもはっきり思い出せない。それはそれとして、そのうちゆっくり夢の話もいろいろ考え合わせてから話すことにしよう。夜は夢の話をしないものとか、女たちが言い伝えているようだからね」



 と言ってこれといってはっきりした返事もないので、夕霧はこんなことをわざわざ差し出がましく言ったのを、光源氏が何と思ったのかと恥ずかしく感じるのだった。

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