柏木 その五十七

 邸には伊予簾をかけわたしてあり、鈍色の喪の几帳も薄物の夏用に衣替えして、その向こうに透いて見える人影もいかにも涼しそうだ。きれいな女童の濃い鈍色の汗衫の端や髪型などがほのかに透けて見えるのは風情があるが、やはりみればはっとさせられる痛ましい喪の色なのだった。


 今日は縁側に座ったので敷物を差し出す。



「あまり端近で失礼ではないでしょうか」



 と女房たちは言いながらいつものように御息所に対応をお願いするのだが、御息所はこのところ気分がすぐれないからと物に寄り臥している。


 女房が代わりに何かとお相手をして時をつないでいる間、夕霧は庭の木立が何の悩みもなさそうに青々と茂っているのを見るにつけてもしみじみともの悲しい気持ちを誘われるのだった。柏木と楓がほかの木よりも目立って若々しい葉の色を見せて枝を差し交しているのを見て、



「どういう前世の因縁か、梢の先が一つに絡み合っているのを将来が約束されたようで頼もしいですね」



 などといってそっと近づいて、




 ことならば馴らしの枝にならさなむ

 葉守の神のゆるしありきと




「御簾の外によそよそしく、いつも隔てておおきになるのはあんまりです」



 と言って、縁側と廂の間の境の下長押に寄り掛かっているのだった。

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