柏木 その三十九

 この若君はとても気品の具わった上に愛嬌があって、目元が艶やかで美しくにこやかなところなどをとても魅力があると見る。思いなしかやはりあの柏木の面影によく似ていた。もう今から眼つきが穏やかでこちらが気のひけるほど人に優れている様子も並外れていて、ほんのり匂い立つような美しい顔立ちだ。母君の女三の宮はそれほど柏木に似ているとも見ず、また他の女房たちはなおさら真実は夢にも知らないことなのでただ光源氏一人の心の中だけに、



「この子が生まれるとすぐに死ぬとは、ああ、何という儚い運命の柏木の一生だったことか」



 と思うと、今更のように大方の人の世の無常についてまでも考え続けずにはいられなくて、涙がぽろぽろと零れ落ちる。



「今日は若君のお祝いの日だから、涙は不吉なのに」



 と、人知れずそっと拭いてそれを隠すのだった。

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