柏木 その三十五

 三月になると、空の景色も何となくうららかでこの若君も五十日のお祝いをするほどになった。若君はとても色が白くて可愛らしく、日数にしては育ちもよくて口など早くもきくようになった。


 光源氏が来て、



「気分は爽やかにおなりですか。しかしまあ実に張り合いのないことですね。これがもとのお姿のままで元気におなりになったのを拝見するのでしたらどんなにうれしくお会いできたでしょう。辛くも情けなくもこの私を捨てて出家しておしまいになったとは」



 と涙ぐんで恨み言を言う。


 麻日に必ず来て尼になった今のほうがかえってこの上もなく大切に丁重にお世話している。


 五十日の祝いには餅を若君にさし上げるのだが、女房たちは祝いの席に母君が尼姿でいるのはどうしたらいいだろうかと躊躇していると、そこに光源氏が来て、



「何の差支えもない。女の子であれば同じ女性ということで、もし母君と同じようになられたら縁起の悪いという心配もあろうが」



 と言って南表の正殿に若君の小さな御座所なども設けて餅をあげるのだった。

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