柏木 その二十

 光源氏があれこれ言って反対し、ためらっているうちに夜も明けてきた。


 朱雀院は山に帰るのに昼は人目に立って具合が悪いと授戒のことを急ぎ、病気の祈祷に参上していた僧の中からくらいの高い有徳の僧ばかりを招き、女三の宮の落飾をさせる。今を盛りの目にもまぶしい美しい髪を削ぎ棄てて五戒をうける作法があまりにも悲しく残念に思われるので、光源氏はとてもたまらなくて激しく泣く。


 朱雀院もまたこの女三の宮をもともととりわけ大切に寵愛して他の誰よりも幸せにしてあげたいと思っていたのに、この現世ではもうその甲斐もない尼姿にしたことが、あきらめようもなく悲しくてたまらないので、涙に掻き暮れている。



「こうしたお姿になられたのですから、せめて達者でいらっしゃいませ。どうぞご無事で。同じことなら念仏もよくおあげなりますように」



 と言って聞かせて、夜が明け果ててしまったので急いで帰っていくのだった。

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