柏木

柏木 その一

 柏木はこうしてずっと同じような病状で一向に快方に向かわないまま新しい年を迎えた。


 父の大臣と母北の方が悲嘆にくれている様子を見るにつけても、



「何が何でも死んでしまいたいと自分から死を覚悟していたもののその甲斐もなくやはり親に先立つ罪の重さを考えて申し訳ないと迷う心はともかくとして、また考えてみれば必ずしもこの世に未練があってどんな無理をしても生き続けたいほどの自分だろうか。


 幼い時から人とは違った高い理想を抱いて何事につけても人よりは一段まさりたいと公私につけて並々ならず自負してきた。しかし一度、二度と蹉跌を重ねるうちにそんな望みは生易しくは叶わないのだと思い知らされ、その度毎に次第に自信を失ってきた。それ以来この世間がすべて味気なくなり、来世を願う仏道修行に心が深く傾いていったが、自分が出家した後の両親の嘆きを推察すると俗世を捨て、野山にさすらい仏道修行する場合に両親の嘆きが強い障りになるに違いないと考えた。それでその後は何とか自分の出離の気持ちを紛らわしながらとうとう出家も果たさず過ぎてきたのだ。しかし結局、この世間と立ち交わっていけそうもない心の悩みが様々に自分に憑りついてしまった。それもみな自業自得で自分のほかに誰を恨むことができようか。すべては自分の至らない料簡から過ちを犯してしまったことだと思えば恨む人もない」

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