柏木 その二

「神仏にも訴えようがないのはこれ皆前世からの因縁というものなのだろう。誰だって千年の松の寿命を保てないこの世では結局いつまでも生き留まっていられることはないのだ。それならあの方にもこうして少しは思い出していただける間に死んでしまい、ほんのかりそめの哀れみにせよ、かけてくださるお方がいらっしゃるのをせめてひたむきにもえつきた我が恋の証としよう。この上強いて生き永らえたら自然忌まわしい浮き名も立ち、自分にもあのお方にも容易ではない厄介な煩悶が発生するようになるだろう。それよりは自分が死んでしまえば不届き者めとお怒りになっていらっしゃる光源氏様にしても、自分の死に免じてともかく許してくださるに違いない。何事もすべては人の命の最後のときに一切消えてしまうものなのだ。また自分には女三の宮との件以外には光源氏様に対して何の過ちもないのだから、これまでの年月何か事あるごとに親しくお側に呼び寄せてくださった、そうした点からでも死んでしまったら可哀そうな者よと憐れみのお気持ちがよみがえってくださるのではないだろうか」



 などと所在ない暇々に次から次へと思い続けてみるものの、考えれば考えるほどまったく情けない思いだった。

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