若菜 その三〇一

 十二月になってしまった。朱雀院の御賀は十日過ぎと決めていろいろの舞の稽古などで六条の院では邸も揺れんばかりの大騒ぎをしている。二条の院の紫の上はまだ六条の院には帰らないが、この御賀の予行演習の試楽があるのにも心が惹かれて落ち着いてもいられず移るのだった。明石の女御も里の六条の院に来る。今度誕生した御子もまた男の子だった。次々とても可愛らしい子供が生まれるので、光源氏は明けても暮れても子供たちの相手をして遊んでやっては長生きの甲斐があったと喜んでいる。


 試楽には髭黒の右大臣の北の方、玉鬘の君も出席した。夕霧は花散里の君の御殿で試楽に先立って内々で調楽のように明け暮れ練習しているので、花散里は試楽は見物しない。


 柏木をこうした大切な催しのときにも参加させないのはいかにも会が引き立たず、物足りなく思われるだろうし、人がおかしいと不審に思うに違いないので、光源氏から参上するように来た。柏木は病気が重いということを口実にして行かない。しかし実はどこが悪くて苦しいという病気でもなさそうなのに、やはり何か悩んでいるからだろうかと可哀そうに思ってわざわざ手紙をやるのだった。父の大臣も、



「どうして辞退なされたのか。光源氏も何か拗ねているようにおとりになるだろうに。たいして重病でもないのだから無理してでも参上したほうがいい」



 と勧めたところに、こんなに重ねて手紙が来たので、柏木は辛さを忍びながら参上するのだった。

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