若菜 その二九九
女三の宮は筆を持つ手がわなわなと震えて書くことができない。
「あのこまごまと書いてあった柏木の手紙の返事はまったくこんなふうに遠慮したりせず、さぞかし進んでやりとりなさったのだろう」
と推量すると、ひどく憎らしくなって可哀そうだという気持ちも何もすっかり消えてしまいそうだが、それでも言葉など教えて書かせる。
御賀のために女三の宮が参上したことはこの月もこうして過ぎ、間に合わなかった。落葉の宮が格別の威勢で参上したのに老けやつれた妊娠中の体で競い合うように参上するのも気のひける思いがしたのだった。
「十一月は桐壺院の忌月に当たります。年末はまた何かと忙しいことでしょう。それにますますご懐妊の姿も見苦しくなり、待ちかねた朱雀院にそれをお目にかけることになろうかと思いますが、そうかといってそうそう延期ばかりしてもいられません。面倒に考えてくよくよなさらず、明るい気持ちを持ち直してそんなにひどく面やつれたお顔をお化粧なさい」
などさすがにやはり可愛いと思うのだった。
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