若菜 その二九五
「とりわけ用事もないからたびたび便りもあげないうちにそちらの様子もわからないまま、いたずらに年月が過ぎていくのは寂しく悲しいことです。お加減の悪いご様子を詳しく聞いてからは念仏誦経のお勤めのときにもあなたのことが思いやられてならないのですが、御容態はいかがですか。夫婦の仲が思うようにいかず寂しいときがあってもじっとこらえておいでなさい。いい加減な噂ではっきりともしないのに気を回して何もかも知っているようなふりをほのめかし、恨めしそうな顔つきを見せるのは品の悪いことです」
など諭している。
光源氏はこの手紙を見るにつけても朱雀院の気持ちが実にいたわしくて申し訳なくて、こうして内々にあったあさましい女三の宮の不始末のことは耳に達するはずもないわけだから、朱雀院はすべては自分の怠慢のせいだと思い、不満でいるだろうとそのことばかり考え続け、
「この返事はどうお書きになられますか。こんなおいたわしいお便りに私こそ本当に辛くてなりません。あなたのことを心外なお人だと思うことがあっても、あなたに粗略なお扱いをしていると人に見咎められるようなことはしていないつもりです。いったい誰が朱雀院に申し上げたのでしょう」
と言う。女三の宮は恥ずかしそうに顔を背けているその姿も本当に愛らしい。ひどく面やつれして、物思いに沈みこんでいるのがますます気高く美しいのだった。
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