若菜 その二七八
「それにしてもこれから女三の宮にどういう扱いをしたらいいものか。どうやら懐妊だという容態もこういう不倫の恋の結果だったということか。何という情けないことだ。こうして自分がじかにこんなうとましい秘密を知りながらこれまで通り大切にお世話しなければならないのだろうか」
と自分の心ながらも前同様世話しようとはとても思い直すことはできないと考えている。
「軽い浮気ということではじめからそれほど本気で打ち込んでいない女でも、他に好きな男ができたらしいと思えば不愉快で気持ちが離れてしまうのに、ましてこの場合は女三の宮が格別の身分の人なのだから、相手の男も大それた料簡を起こしたものだ。帝のお后と過ちを犯す例も昔はあったけれど、それはまた事情が違う。宮仕えということで自分も相手も同じ帝に親しくお仕えしているうちに自然そうした何かのいきさつがあって互いに情を通わすようになり、つい不始末を起こすようなこともきっと多く生まれるというものだろう。女御や更衣といった身分の人でもあれやこれやとこうした面でどうかと思われる人もおり、たしなみ深い心構えの持ち主とは言えない人も中にはまじっていて、想いもよらない間違いを起こすこともあるが、その重大な不始末がはっきり人目につかない間は、そのまま宮仕えを続けていく場合もあるので、そう急には表沙汰にはならない不倫の事情もあるだろう。しかし正妻としてこれ以上並ぶものもない丁重な扱いをしてさし上げて、内心ではずっと深く愛している紫の上よりも粗末にできない大切な人としてお世話しているこの私をさしおいて、こんなとんでもない不始末を引き起こすとは、世間に例もないことだろう」
とつまはじきしたい気持ちだった。
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