若菜 その二六一

 柏木は昨日一日引きこもって退屈さを持て余し、懲り懲りしたので今日は弟の左大弁や藤の宰相などを車の後方に同情させて祭見物に出かけた。こんなふうに人々が紫の上のことを噂しているのを聞くにつけても胸がつぶれそうで、桜は散るからこそ結構だと思い、<憂き世に何か久しかるべき>という歌をひとり口ずさみながら二条の院にみんなと一緒に参上した。


 確かな話ではないので、お悔やみというのは縁起でもないと思い、ただ普通の病気見舞いの形で来たが、こうして人々が泣き騒いでいるので噂は本当だったのかと驚く。


 紫の上の父君である式部卿の宮も二条の院へ来て悲しみのあまりすっかり放心している。人々のお見舞いの挨拶も奥へ取り次ぐことができない。


 夕霧が涙をぬぐって出てきたので、柏木は、



「一体まあどうなさったのです。縁起でもないことを人々が噂していますので、まさかと信じられなくて。ただ長い病気だとお伺いして心配のあまりお見舞いにあがったのですが」



 などと言うのだった。

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