若菜 その二六二
「ひどく重態になられたまま長いことになっていましたが、今日の明け方から息絶えてしまわれたのです。それは物の怪の仕業だったのです。ようやく今、息を吹き返されたと伺いまして、みんなでほっとしたばかりですが、まだとても安心できる状態ではありません。おいたわしい限りです」
と夕霧は見るからにとても泣いた顔つきだ。目も少し泣き腫れている。柏木は自分の大それた恋心から推量して夕霧がそれほど親しくもない継母の病気をひどく心配していることに注目して怪しいと感じた。
光源氏はこうして誰彼がお見舞いに来たとのことを聞き、
「重い病人に急変があり、臨終かと思われる様子だったので、女房などは気も動転して取り乱し泣き騒ぎましたから私も慌てふためいて気もそぞろになりました。後日改めてこうしてお見舞いに下さったことにお礼を申し上げましょう」
と言う。
柏木はそれを聞いただけでも胸もつぶれる思いで、こんなのっぴきならないどさくさ紛れでなければとても伺うことはできまいと思うので、あたりの雰囲気に気がひけて秘密を隠そうとする心の中はどうも綺麗だとは言えないのだった。
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