若菜 その二五四

 光源氏はごくまれにしか六条の院にいないので、来てすぐ二条の院に帰るわけにもいかず紫の上のことが気掛かりでそわそわしている。


 そこに使いが来て、



「ただいま紫の上の息が絶えてしまいました」



 と告げた。光源氏はもう何の分別もつかず、心も真っ暗になって二条の院に帰る。道中ももどかしく心も空に着くと、なるほど二条の院では近く大路まで人があふれて騒いでいる。


 邸内からは人々の泣きわめく声が聞こえ、いかにも不吉な感じだ。我を忘れて内に入ると、女房が、



「この二、三日は少しよろしいようにお見受けしていましたのに、急にこんなことになってしまわれまして」



 と言って、仕えている女房たちが残らず自分も死出のお供をしたいと泣き惑うありさまはこの上ない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る