若菜 その二三八

 紫の上の病気騒ぎからこうして光源氏もずっと六条の院にはいないので、おそらく六条の院は人目も少なくひっそりとしているだろうと推量して小侍従を度々邸に呼び寄せては手引きするように熱心に掻き口説く。



「昔からこんなに死ぬほど恋焦がれている私にはあなたのような親しい手づるがあって女三の宮の様子もお伺いすることができ、おさえがたいこの想いの切なさも女三の宮にお伝えしていただいて、頼もしいと思っているのに一向にその効果があらわれないので、本当に辛くてたまらない。朱雀院でさえ光源氏がこんなふうに多くの女君に情をかけて女三の宮は紫の上の権勢に気圧されていらっしゃる様子で、お寂しく一人寝なさる夜が多く、所在なさそうにお暮しの様子だなどと人からお聞きなられると少し後悔あそばした様子で、



『どのみち同じ臣下に縁付けて気楽に暮らさせるなら、もっと忠実に世話してくれる人物を選ぶべきだった』



 と仰せになって、



『女二の宮がかえって何の心配もなく、行く末長く添い遂げられそうだ』



 とおっしゃったそうだが、それを聞くにつけ、おいたわしくも残念に思われてどんなに思い悩んだことか。確かに同じお血筋の姉妹だからと思って女二の宮をお迎えしたのだけれど、それはそれだけのことでやはり女三の宮とは違うのだから」



 と重い吐息を洩らすのだった。

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