若菜 その二三三

 六条の院では上を下への大騒ぎになり、悲しみ惑う人が多かった。冷泉院も耳にして嘆く。紫の上が亡くなったら光源氏も必ず出家の本意を遂げるだろうと夕霧なども心の限り看護に尽くしている。病気平癒の祈祷などは光源氏がするのは言うまでもなく、それ以外にも特別にさせる。


 紫の上は少し気分の確かな時には、



「お願いしている出家をお許してくださらないのが辛くて」



 とそればかり恨む。光源氏は寿命が尽きて永遠の別れをしなければならないことよりも目の前で自分から出家して変わり果てた尼姿になるのを見てはなおさら片時もたまらないほど惜しく悲しく思うに違いないので、



「昔からこの私こそそうした出家の願いが深かったのに、後に残されたあなたがどんなに寂しく思われるかとそれが心配なあまり出家できない年月を過ごしてきたのです。それなのに反対にあなたが私を捨ててしまおうとなさるのですか」



 とばかり言い、ただもう紫の上の出家を惜しんでいるばかりだった。

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