若菜 その二〇一

 廂の間の中仕切りの襖を取り外して、女君たちはそれぞれ几帳だけを隔てにして中央の間に光源氏の御座所を用意する。今日の拍子合わせには子供を呼ぼうということになった。髭黒の右大臣の三男で玉鬘との間にできた子供たちの中では長男にあたる子に笙の笛を、左大将になった夕霧の長男には横笛を吹かせることにして、簀子に控えさせている。


 内部の廂の間には敷物を敷き並べて、女君たちにはお琴などの楽器をそれぞれ渡す。光源氏の秘蔵の楽器類が見事な紺地の袋に一つ一つ入れてあるのを取り出して、明石の君には琵琶、紫の上には和琴、明石の女御には筝のお琴をさし上げる。女三の宮にはこうした由緒ある重々しい名器はまだ弾けないのでは危ぶまれて、いつも稽古に使っている琴を調律してから渡した。



「筝のお琴は、絃が弛むということではないが、やはりこうして他の楽器と合奏する時の調子によっては琴柱の位置がずれるものです。あらかじめその点を細心に注意して調子を整えないといけないのだけれど、女では絃をしっかり張れないでしょう。やはり夕霧の大将を呼んだほうがいいようですね。この笛吹きさんたちはまだあんまり小さくて拍子を整えるのにはどうも頼りないようだね」



 と笑って、



「夕霧、こちらへ」



 と呼ぶと、女君たちはきまり悪がって緊張するのだった。

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