若菜 その一九七

 朱雀院の御賀はまず今上帝の催しが多く、さぞ盛大にすることだろうから、それと重なっては不都合だと考え、光源氏は女三の宮のする祝いを少し先延ばしにした。その日を二月十日余りと定めて、楽人や舞人などが六条の院に連日参上しては絶えず音楽の遊びがある。



「紫の上がいつもあなたの琴の音を聞きたがっているので、あの人たちの筝や琵琶とあなたの琴を合奏して、どうでしょう、ひとつ女楽を試したいものですね。当節の音楽の名手たちもとてもこの六条の院の女君たちのお手並みには敵いませんよ。私は音楽についてはこれといってきちんと伝授を受けたものはほとんどないのですが、何事にもよらず何とかして知らないものはないようにしたいと幼い時から思ったので、世間の師匠という師匠、またいろいろな由緒ある名家に伝わった名人と言われた人々の秘伝も残らずに学んでみましたが、その中でほんとうに造詣が深くてこちらがとても敵わないと恐れ入るような人はいませんでした。私の若かった頃よりも近頃の若い人々は洒落すぎていたり、気取りすぎたりするため、まったく浅薄になってしまったようです。琴はまたいっそう習う人がさっぱりなくなったとか聞きます。あなたの琴の音色ほどにも習い伝えたい人はほとんどいないでしょう」



 と言うと、女三の宮は無邪気に微笑んでこんなに認めてくれるまで上手になったのだとうれしく思う。二十一、二ぐらいになったが、まだとてもあどけなくて女としては十分に成人しておらず、未熟な感じがする。華奢で触れば壊れそうにかよわく、ただ可愛らしいばかりに見えるのだった。

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