若菜 その一七八
けれども紫の上は、
「もうこれからはこんなありふれた俗な暮らしではなく、心静かにお勤めもしたいと思います。この世はもうこの程度のものとすっかり見極めたような気のする年齢になってしまいました。どうか私の願いをお聞き入れになって、出家を許してくださいませ」
と真剣な表情でお願いする折々もある。光源氏は、
「とんでもないつらいことをおっしゃる。出家は私こそ前から深く望んでいることなのに、後に残されたあなたが寂しくなるだろうし、今までとは打って変わった境涯になられはしないかとその様子が心配でならないからこそ出家ができないでいるのですよ。私がいつか本懐を遂げた暁にはあなたのお好きなようになさればいい」
とばかり言い、いつも反対するのだった。
明石の女御は紫の上だけを本当の生みの母親のように立てて仕えている。実母の明石の君は蔭の世話役に甘んじて謙遜して分を守っているのがかえって将来頼もしく見えて結構なことだ。尼君もどうかするとこらえきれない嬉し涙が零れ落ちるのをしきりに拭くので、目のふちを赤くただれさせて、長生きをして幸福な年寄りの見本のようになっているのだった。
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