若菜 その一七六

 そこで髭黒の大将が右大臣に昇進し、天下の政務を執行することになった。


 髭黒の右大臣の妹君で新帝の生母の承香殿の女御はこうした時節を待たず、すでに亡くなったので、最高の皇太后位の追贈を受けたが、光の当たらない物陰といった感じで、張り合いのないことだった。


 明石の女御の生んだ一の宮が東宮に立った。そうなるはずと前々から予想はしていたものの、いざそれが実現してみると、やはりおめでたいことで、目も覚めるようなすばらしいことだ。


 夕霧は大納言に昇進した。髭黒の右大臣とはますます理想的な睦まじい間柄だ。


 光源氏は退位した冷泉院に世継ぎがいないのを内々密かに物足りないと思っていた。新東宮も同じ自分の血筋ではあるものの、冷泉院への気持ちには格別なものがある。これまで冷泉院の在位中は胸のうちの煩悶を外に洩らさなかったおかげでこれといって表ざたにはならないまま、出生の秘密という罪は世間に洩れずに治世を無事に全うした。その代わりに子がなく、帝位を子孫に伝えることができなかった冷泉院の宿縁を光源氏は残念にも寂しくも思う。それも人に話せることではないので、気持ちが晴れないのだった。

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