若菜 その一六〇

 いつもよりも女三の宮の機嫌が悪くはかばかしい返事もしない。小侍従はつまらなくて、無理にこれ以上言うことでもないので、人目を忍んでいつものように自分で返事を書く。



「先日は、素知らぬ顔をしていらっしゃいましたのね。女三の宮に対して分不相応なひどい人とお許しできませんでしたのに、『見も知らず』とはどういう意味ですか。まあ、何だか色めかしいこと」



 とさらさらと走り書きして、




 いまさらに色にな出でそ山桜

 およばぬ枝に心かけきと




「甲斐ないことですのに」



 と書いてあるのだった。

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